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マクドナルドと私 ep2 マックグリドル 2007

世の中には2種類の人間がいる。
外国の料理を
現地そのままの仕様で出してほしいと思う人間と
日本人の口に合うようにちゃんとアレンジして欲しいと思う人間だ。
これに関してはどっち付かずの人というのはあんまり存在しなくて、わりとどちらかにはっきり分かれる気がする。
ただし前者の、現地そのまま派は圧倒的に少数派だ。

だから外国料理を提供するほとんどの飲食店は、いかにして日本人の味覚にフィットするアレンジを加えるかに躍起になる。
現地の味、を標榜していてもそれはその実ちゃっかりアレンジを施されている事が普通である。

大手の規模の大きいレストランは、当たり前だがマスがターゲットだから、大多数の日本人の嗜好に合わせるアレンジというのは最優先課題とも言える。
逆に現地そのまま派はごく少数だから、そういう好事家を主なターゲットとする店は都会の片隅にひっそりと小規模でゲリラ的に存在する。
いわゆるニッチマーケットだ。

乱暴な言い方をするならば、世の中のほとんどの飲食店は、お客様の好みに徹底的に合わせます、というスタンスで、その傾向は大手になればなるほど強くなる。
そんな中ごく例外的に、そんなの知ったことではない、俺は俺が好きな現地の料理をそのまま出すのみ。客であるお前の方が合わせろ、というスタンスの店が少数ではあるが存在する。
そういう店は、比較的小さな店である事が多いし、またある程度の都会でのみ成立する。
唯一の巨大すぎる例外を除いては。

1970年代初頭、マクドナルドの日本法人が設立された。
日本人経営側は、ハンバーガーに対して一つの提案を行ったと言う。
このピクルスは絶対に日本人の口に合わない。
日本ではこれを抜いた形で販売したい、と。
しかし米国側は頑としてこれを跳ね除けた。
日本側は、せめてディルピクルスではなく、まだ多少は日本人にも馴染みのあるスイートピクルスではどうかというところまで譲歩したらしいが、米国側はそれでも一歩も譲らなかった。

私が初めてマクドナルドを知ったのは小学生のころだった。
ハンバーガーはとても美味しい食べ物だったが、真ん中に挟まっている酸っぱいキュウリはどうにも妙な味だった。
友人たちとハンバーガーを食べる時、彼らのほとんどは儀式のようにまずこのキュウリを引っぱりだし取り除いてからおもむろにハンバーガーにかじりついていた。
私は当時からとても面倒くさがりな上に吝嗇であったから、まあいいやとそのまま食べていた。
キュウリは相変わらず妙な味だったが、しかし繰り返すうちそれはなんだか美味しく感じられるようになり、いつの間にかピクルスを噛み当てる一口を楽しみにハンバーガーを齧り始めるほどの好物になった。
しまいには当時店内に置かれたお客様ご意見ボックスに、
「ピクルスをいっぱい入れたピクルスバーガーをつくってください やはた小 いなだしゅんすけ」
などと投書する始末であった。
その願いはなんとその35年後に突然かなうことになるのだが、それはまた別の物語。いつか話そう。

先日ある人がパクチーに関してこんな事を言っていた。

最初にパクチーを食べた時、はっきり言ってマズかった。
二度目食べてもマズかった。
しかし、これは世界中至る所で多くの人々が好んで食べている。
これは何かあるに違いないと信じてその後も我慢して食べ続けていたらいつのまにか大好きになっていた。

この、これは何かあるに違いない、と思うか思わないかは重要である。
冒頭に述べた常に現地そのままを求める人々と言うのは基本この、何かあるに違いない、の人々である。
最初に少々我慢するという小さな投資で、後々新しい食べる喜びを知るという大きな回収がある事を知っているのである。
しかもそういう事を何度か繰り返すうちにある段階から、未知のものでも特に我慢するわけでもなく最初からその良さをある程度理解するという訓練された感覚を身につけるのである。
そうなればしめたもの、それ以降の人生は無投資で回収し放題である。

私にとってマクドナルドのピクルスはそんな訓練の第一歩であったのかもしれない。
そしてほとんどの日本人にとっても今となってはディルピクルスはごく身近な食べ物になった。

ピクルス一つとってもわかるように
マクドナルドは基本的には当時も今も
「お前の方が合わせろ」
というスタンスのレストランだと思う。
メニュー表にいきなりフィレオフィッシュ、と書かれても日本人は困惑するばかりではないか。
普通に考えたらせめてフィッシュバーガーとでも改名する所だろう。
実際後発のハンバーガーチェーンはそういうわかりやすいネーミングを採用した。
しかしマクドナルドは違う。
なんでそんなもん説明しなきゃならんのだ。
お前の方がわかるようになれ。

そう書くと顧客軽視のひどい店であるが、しかしこれはまぎれもない啓蒙である。
お前があわせろ。
お前がわかれ。
それによって顧客の味覚も知識も広がっていったのだ。

2007年、そんなマクドナルドの「お前の方が合わせろ主義」を象徴するような商品が発売された。
マックグリドルである。
世間は唖然とした。
一般的な日本人の感覚で言えば、甘いデザートでしょっぱい肉を挟んだわけのわからない食べ物、という以外の何物でもなかった。
相変わらずネーミングからも何ひとつその意図する所は伝わってこなかった。

話は唐突に変わるがアメリカの児童文学で、インガルス一家の物語、というシリーズがある。
日本では、大草原の小さな家、と言った方が通りが良いか。
このシリーズ、特に序盤の数冊は、アメリカ開拓時代の素朴で貧しいがとても魅力的な、そして古きヨーロッパの伝統を汲んだ食べ物や料理のオンパレードである。
冬を前に解体した豚でハムやベーコンやフロマージュドテットを作る。子供達はそのおこぼれで豚の尻尾をもらい、それを薪ストーブでジュージュー炙って食べる。
楓から集めた樹液を鍋でぐらぐら煮詰め、それを雪の上に落として飴を作る。
そんな印象的なシーンが随所に出てくる。
そんな中、ごく日常的な朝食の風景としてこんなシーンがあった。
お母さんがスキレットを火にかけて、脂身たっぷりのベーコンを焼き始める。
ベーコンからは美味しい脂がたっぷりの浸み出し、ベーコンそのものも色よく焼きあがる。
そうしたらお母さんはそのベーコンを取り出し、今度はそこでパンケーキを焼くのだ。
パンケーキはベーコンの脂を吸って香ばしく焼きあがる。
そしたらそのパンケーキを皿にとり、先ほどのベーコンをのせ、そこに煮詰めてとっておいたかえで蜜をたっぷりかけるのである。

私が最初にマックグリドルの概要を知った時、なるほどまさにこれか、と思い出したのがこのシーンである。
アメリカ人のルーツの一つとも言える開拓時代、その素朴で力強い料理を近代マクドナルド流のパッケージに包んで、何の予告もエクスキューズも無しにいきなり日本のマーケットに放り投げる。
「私たちにとって良いものはあなたたちにとっても良いものであるに違いない」
そんな確信に満ちている。
それは都会の片隅で大衆に媚びる事なく現地そのまま系レストランを営む頑固なオーナーシェフのそれと本質的に同じものだと私は思う。

だからこういうマクドナルドの態度を私はたいへん好ましく思っている。
そしてそれは日本の多くの「極端に顧客至上主義的な」大手チェーン、いや大手よりむしろ中小や個人店の多くから失われつつあるものなのではないだろうか。

マクドナルドにはグラタンコロッケバーガーのように極めてローカルな商品も少なくないが、やはり真骨頂はマックグリドルに象徴される「お前が合わせろ主義」的な商品だと思う。

日本人がマフィンとは甘いカップケーキの事だとしか思ってなかった頃にいきなりイングリッシュマフィンを朝飯に食えと言い始める。
日本人にとってとてもソーセージには見えず味も知っているソーセージとはかけ離れたものをソーセージだと言い張ってそれに挟む。
テキサス風のBBQソースと言われた時点でもうわけがわからないが食べるとクミンやオレガノが効きまくった完全に外国の味で消費者を置いてきぼりにする。
魚フライと芋フライの組み合わせをオカズではなくそれで完結した食事だと言い張る。

私はマクドナルドのそういう所が好きである。
そして。
昨今、行きすぎたお客様第一主義でたしかに飲食店は安くてクオリティも高くなってる反面全てが想定範囲内に収まりがちというつまらなさに拍車がかかっているように思えてならない。
マクドナルドには、そういう世間の流れに対抗する、最後のそして最大の砦であり続けて欲しいと思っているのである。















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コメント

マックグリドル

初めまして、Twitterからで、ブログの一連の記事、とても面白く読ませて頂きました。
マックグリドルがマックメニューで一番すきなのですが、なぜ朝マックなのかがわかった気がしました。
メープルシロップと塩蔵肉は大好きな組み合わせで、マックグリドルに粒マスタード挟んでもおいしいと思います。
私は41ですが、子供の頃のマックは日曜日の昼に連れて行ってもらえて、普段食べないハンバーガーやポテトを食べコーラが飲める、楽しみな場所でした。シェークやナゲットを初めて食べたのもマックでした。

最近ではハンバーガー自体が、自分やこどもにとっても食べに行くのを楽しみにする食べ物でなくなったと感じます。ハッピーセットのおもちゃ欲しさにフードコートでは必ずマックだった娘も、小学生になったら、ハンバーガーよりかけうどんととり天を選ぶようになりました。
私はマックのマックマックしたパティの味、チーズバーガーのチーズの味が好きなんですけど。

Re: マックグリドル

同世代ですので、子供の頃のマックに対する圧倒的なワクワク感みたいなのはすごくわかります。
何が大きく変わったとも思えないのにあのキラキラ感が失われたのは不思議といえば不思議です。

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プロフィール

イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
↓小ネタはコチラ↓
https://twitter.com/inadashunsuke

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