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1995年のあんかけスパゲッティ 中編

名古屋での仕事は、お世辞ではなく良い先輩方に恵まれた。
何がいいって、業種がらもあり全員が食いしん坊だったのである。
外回りに出ない日はよくランチにも誘ってもらった。
ランチからビールを空けつつ二軒ハシゴする事も稀ではなかった。
ある時、入社から5年目で15Kgの体重増加を成し遂げた先輩のエフ氏からランチに誘われた。
「おいイナダくん、ゲッティ行こまいゲッティ!」
ゲッティとはどうもスパゲッティの事であるようだった。

前回のエピソードからもお分かりと思うがスパゲッティは大好物である。
しかし私はその時、あの数週間前の悪夢のようなスパゲッティを思い出していた。
まさかあそこまでとんでもないスパゲッティ屋もそうそう無いとは思うが、ここは安易にぬか喜びも過度の期待も禁物であると自分に言い聞かせた。
20代とは思えない風格のある腹を揺らしながら闊歩するエフ先輩の後について歩きながら私は少しだけ先日の話をした。
「実はこの間たまたま行ったスパゲッティ屋がほんとひどくてですね、僕あんなまずいスパゲッティ生まれて初めて食べました。ていうか生まれて初めてスパゲッティを残しました」。
「それはアンラッキーだったねえ」と心優しい先輩は同情してくれた。
「今から行く店はよう、なかなかこれが美味いんだわ。しかもコレ量が多いんだわ。今日はさすがに2軒目は無理かもしれんねえ」。

そうこうしているうちに目当ての店に着いた。
すでにちょっとした行列ができていた。
スパゲッティ屋と聞いていたのに並んでいるのはおじさんばかりであった。
私はなんとも言えない胸騒ぎを感じた。
まさか、、、。
行列を進んだ先の店頭にはメニューサンプルの並んだショーケースがあるようだった。
私は先輩に断り、ちょっと列を離れてそのショーケースを覗きに行った。
目を疑った。
そのまさかであった。
あきらかにあの、アレであった。
赤茶色のソースが周りに流されたスパゲッティの上に、赤ウィンナーや、野菜炒めや、コロッケや、トンカツが載っていた。
まさかあの店以外にもこういうとんでもないスパゲッティを出す店があったとは。
私は無言で戻り、冴えない気分で列に並び直した。

しばらく後テーブルに着いた我々の元にスタッフさんが注文を取りに来ると、エフ先輩はメニューを見もせずに、謎の呪文を唱えた。
「ミラカンイチハン」
私はと言うとメニューに記されたこれまた謎の呪文の数々をもはや解読する元気もなく、同じ物で、と続けた。

先輩によると、ミラカンはハムやソーセージてんこ盛りのミラネーズと野菜炒めすなわちカントリーが合わさった物で、イチハンとは一半すなわち通常の1.5倍にボリューム増量したものであるとの事だった。
「でも1.5倍と言いつつ実際はどう見ても倍以上あるんだわ。」
先輩は実に愉快そうにそう教えてくれた。

私はあまり愉快ではなかった。
数分後、目の前にそびえ立ったミラカンイチハンは確かに相当のシロモノであった。
しかし少なくとも先輩に遅れを取るわけにはいかない。
まして残すなど言語道断であろう。
私は意を決してフォークを手に取った。

味は、前回食べたものとだいたい同じような物であった。
しかし今回は事前に十分覚悟を決めて気持ちを整理する余裕があった。
そのせいかわりとスムーズに完食する事はできた。
しかし、エフ先輩には申し訳ないが、心の中では美味くはないなあ、としみじみ思いながらではある。
特に赤ウィンナーがきつかった。
今後なるべくここに誘われないようにするにはどう振る舞えば良いか考えながら食べた。

その日先輩がいつものように、
「もうひといき食い足らんなあ。もう一軒行くか?」
と言い出さなかったのは不幸中の幸いであった。


つづく



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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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