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1995年のあんかけスパゲッティ その後

こうして私はあんかけスパゲッティ(くどいようだがその時代にはまだその呼び名は存在していない)に魅せられた。
私は3回食べてようやくその美味しさを発見、あるいは解明したわけだが、正直なところ味そのものに魅せられたというよりはむしろ存在自体に強い興味を持った。
この奇妙な、そして愛すべき食べ物が、なぜ、どのようにして名古屋で生まれたのか。
そしてなぜそれは他の地に飛び火することなくここだけで生き残ったのか。
そしてそれをこの地の人々はどのように愛して(あるいは蔑んで?恥じて?)いるのか。
店ごとの味の違い、オリジナルメニューはどうなっているのか。
そういったことが気になって仕方がなかったのである。

当時はもちろんまだ食べログなどという便利な物はないし、そもそもネットでググって得られる情報などほんのたかが知れている、そんな時代であった。
私はフィールドワークを敢行すべく、タウン誌やグルメムックなどを漁って名古屋の各地区に点在するそのタイプと思われる店をピックアップし、外回りの仕事用に渡された地図にこっそりマーキングをした。
当時調べた店は、スパゲッティ、ではなくスパゲッチハウス、とかスパゲチ専門店、といった昭和レトロな表記も少なくなくそれがまたチャーミングであった。
まるで暮らしの手帖のようではないか。
もっとも暮らしの手帖はどちらかというとああいう邪道な食べ物は否定する側に回りそうでもあるが。

調査を開始するにあたって、私はまずこの食べ物に名称を与えねばならぬ、と考えた。
当然の事である。
先にも書いたように当時それは単にスパゲッティとしか呼ばれてなかったわけだがそれでは研究上何かと不都合だ。
大名古屋スパゲッチ、と言うのがその時思い付いた名称である。
略して名スパ。
もちろん、めーすぱ、と読む。

あんかけスパゲッティという名称はその後生まれ、定着したのはご存知の通りだが、私はこの名称を正直好まない。
この料理は、あくまで由緒正しき日本の洋食であるところに最大の魅力があると思っている。
なぜかガラパゴス的に進化した「もう一つの洋食文化」である。
あんかけスパ、ではなんだか根無し草の単なる思い付きの創作料理のようではないか。
じっさいこの名称のせいでこれを「炒めた麺に中華風のあんがかかったB級創作麺料理」と誤解するたわけた連中がようけおるんだわ。
おっと、もとい。
困った方々が少なからずおられるのだ。
そうでなくても「あん」とは何だ「あん」とは。
スパゲッチ屋なら、洋食屋なら、誇りを持ってソースと呼びゃーせ。
デミグラスソースと異母兄弟のようなルセットのあの独特なソースを丹念に仕込み、
安い単価にもかかわずコロッケやフライ物を一つ一つ手作りし、
ピカタのような忘れられかけた洋食メニューをひっそりと守り抜き、
安易な和洋折衷には走らない、
そんな洋食屋としての矜持と誇りこそがその魅力の根源なのである。
デカ盛りやジャンクとも言える味わいはそれに付随して結果的に生まれたほんの一面に過ぎない。
あんかけスパという名称はそういったものを全てすっ飛ばして、ただの滑稽なB級創作料理でごさいますと開き直り、すり寄っているようにしか見えない、というのが私の個人的な感覚だ。
今更言っても詮無い事だし、私自身もこの名称を普通に使いもするのだが、そこにはこういう少々忸怩たるものもあるのである。

つい熱くなって話が大きくそれてしまった。
とにもかくにも私はこうやって名スパフィールドワークを始めた。
もちろんそれと同時にささやかながら普及活動も開始した。
たまに名古屋を訪れる旧知の友人たちは、当然ながら名古屋名物を食べたがった。
きしめん、味噌煮込みうどん、天むす、味噌カツ、そういったものは当時でももちろん全国的に有名だった。
しかし私はその度に、
「きしめんだ味噌煮込みだはよう、あんなもんはいつでも食べられるしよそにも似たようなもんはどんだけでもあるわ。まあここは名古屋でしか絶対に食べられんどえらけねえ名物食べさしたるわ」
と彼らをとっておきの名スパの店に引率するのが常であった。
そしてそれはだいたいにおいて不評を買うのが常であった。
これは無い。
これはあんまりだ。
と、彼らは言うのである。
「とろくしゃあこと言っとってかんわ。俺もまともに食えるようになったのは3回目からだわ。最初なんて半分以上残したもんだわ」。

後にも先にも一人だけ、最初から美味い美味いと大喜びで食べた男がいた。
京都の学校を出て当時大阪で働いていたその男、よくよく話を聞くと名古屋のお隣、愛知県小牧市出身であった。

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イナダシュンスケ

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業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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