記事一覧

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ばあちゃん、子豚の丸焼き、牛バラ煮込みそば

もう亡くなったが、私の母方の祖母はまぎれも無いグルメであった。
寿司ならここ、洋食はここ、うどんはここ、と市内の繁華街を中心にお気に入りの店を持ち、今で言うデパ地下グルメに関してもあそこのあれはどうだここはどうだとやたらに精通していた。
中でも好物だったウナギと中華料理に関しては特に熱心で、毎年マイベストレストランを勝手に選定し、親族の集まりにはそこから出前を取ったり宴会を主催したりしていた。
さしずめアナログ版元祖ひとり食べロガーである。
ある年のウナギ部門は、もともと贔屓にしていたMという店が職人が変わったか何かで5年ぶりに1位に返り咲いたと大喜びであった。
自分で勝手にランクを落としたり上げたりしといて大喜びもないもんだとも思うが、それだけ真剣だったのであろう。

祖母は戦時中に満州で大勢のお手伝いさんに囲まれたお嬢様暮らしをしていたようだ。
そしてそこで本場の中国料理にドはまりし、お手伝いさんに直接いろいろな中国料理の手ほどきを受けたらしい。
確かに生前祖母がたまに作っていた焼きビーフンや水餃子は絶品であったのを覚えている。

そんな経緯があったから、祖母は中華料理が好きと言ってもそれはあくまで本場風の中国料理であり、いわゆる日本式の中華料理はその嗜好の埒外であったようだ。
毎年の中華部門ベストレストランでの宴席も、名前を知ってる見慣れた中華料理が出てくる事はまず無かった。
当時はむしろそれが当たり前と思っていたが後になって考えるとあれは事前に祖母が店側にきっちりそういう要望を出していたのであろう。
完全にマニア系食べロガーのオフ会のノリである。

私が幼児の頃に、叔母の結婚披露宴が毎年だいたい2位にランク入りするSという店で行われたのだが、その時のメインディッシュがなんと豚の丸焼きであったのも祖母の差し金であったか。
大人たちは、皮は大人で食べてあげるから子供は好きなだけ肉を食べていいぞ、と親切ごかして私に大量の肉を食わせたが、後日それは北京ダック同様こんがりと焼けた皮をメインに食べる物だったと知り私は憤慨した。
あの恨みは未だに忘れぬ。
しかも私は欲張って大量の硬い肉を頬張ったところで余興の出番が来てしまい、他の子供と一緒にステージに呼ばれたはいいものの「およげたいやきくん」のイントロ、1コーラス、2コーラスとずっと口の中の肉を咀嚼する事に専念するしかなく、最後ようやくおじさんが唾を飲み込んで哀れなたいやきくんをうまそうに食べるワンフレーズしか歌唱に参加する事が出来なかった。

またある時、親族8人くらいで横浜に行き中華街を訪れた事があった。
目指す店は最初から決まっていたようで、表通りの大きくて綺麗な店を次々と素通りし、裏通りの更に路地に入った一軒の小汚い店に入った。
小学生だった私は最初表通りのきらびやかさに舞い上がりまくっていたのだが、道を曲がってその店に近づくにつれテンションはガタ落ちになり、最終的にたどり着いた店のショボさには正直完全に意気消沈していた。
しかし大人たちは当然そんな私を意にも介さず、とりあえず祖母は私の分も含めて人数分の「牛バラ煮込みそば」を発注した。
私はこんなとこまで来てしかもラーメンなんて食べたくないやとも思ったが、大人たちの会話から「大きなお肉がトロトロ」というフレーズを抽出して自分を納得させる事で一人わがままを言いだす事だけは我慢した。
ほどなく運ばれてきたそれは確かに大きめの肉塊がいかにも柔らかそうで、真っ黒なツユの奥に麺が霞む、私がそれまで知っていたラーメンとは見た目から全く別物だったのだが、見た目以上に驚いたのはその匂いである。
完全に未知、初体験の匂いだった。
味はその匂いのイメージ通りに少し甘く、真っ黒な見た目に反してしょっぱくは無かった。
大人たちは大興奮で、確かに美味い、これはすごい、と大喜びだった。
私は最初の内こそその未知すぎる味わいに戸惑うばかりであったが、結局最後には無我夢中になって食べ終えていた。
その時に、その独特の甘い香りの正体が八角を中心とした香辛料によるものだという事、この店は日本一それが美味い店である事、他の店で食べてもほとんど醤油の味しかしない事、などを祖母に教わった。
その後大人になってから、その時の「牛煮込みそば」が牛肉麺、ニューローミェンという中国の代表的な麺料理の一つであったという事を知った。
そしてその時のそれとほぼ同じ味に「再会」できたのは更に後、初めて行った台湾での出来事であった。

私は今回本当はこの祖母の話をマクラに現在の日本の中国料理店について何がしかを書く予定だったのだが、わりともうそれはどうでもよくなったのでまたいずれそれは改めてという事で、今回は個人的な想い出話にお付き合いいただきありがとうございました。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
↓小ネタはコチラ↓
https://twitter.com/inadashunsuke

月別アーカイブ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。