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謎の本店ラーメン 前編

大陸系台湾料理店、という通称は知らなくても、行った事がある、見た事があるという方は実は多いのでは無いだろうか。
中部及び関東地方を中心に近年すごい勢いで増えた、大きく派手な看板で台湾料理を掲げた店である。
スタッフは基本全員中国人、台湾料理を掲げつつ出すものは日本式の中華料理が大部分で、それに加え「台湾風**」と付いてはいるものの台湾料理そのものとは言い難い料理が若干ある。
「台湾風」料理の方は見る人が見れば名古屋の味仙という古くからの台湾料理店の独特なオリジナル料理を真似た物がほとんどとわかり、この手の店が名古屋発祥という説を裏付けている。
(ちなみにその味仙の料理もそもそも純粋な台湾料理とは言い難い物ではあるが、これは発祥の時代などを考えると無理からぬ所でもあるし、それはそれで名古屋という土地柄を背景にして独自に完成された素晴らしい物である事は付記しておきたい。そしてこの大陸系台湾料理店が真似て作るそれらの料理がその美味しさまでをも再現できているかというとこれははなはだ疑問である。)
そういった内容のメニューはどこの店も似通っている。
というかほぼ同じと言ってもいい。
内容だけでなくメニューブックのデザインや写真もそっくりだ。
また、ランチのセットメニューなどは特に、安くてやたらと量が多いのも共通している。
ああ、あれの事か、と思い当たる方も多いのではないだろうか。

先ほど、スタッフは中国人、と書いた。
台湾人の間違いじゃないの?と思った方もいらっしゃるかもしれないが、これはどうも中国人という事で良いようである。
あくまで一説によるとであるが、日本人に対しては中国人である事を明かすよりは親日国である台湾出身を偽る方がイメージが良いという計算された戦略であるらしい。
また一時期頻発した中国産食品がらみの不祥事からくるイメージダウンを多少でも避けたいという目論見もあったようである。
これは私論であるが、加えて発祥地である名古屋においては先の味仙のブランドイメージは極めて高く、それと同じ台湾料理店というジャンルであるという宣言は他の中華料理店に対して有利な差別化になり得たのではないかとも思っている。

しかしそれにしても、出自を偽り、金にならないプライドなど捨て、大きく掲げた看板との矛盾などなんのその、ターゲットとする顧客にとっての利用しやすさだけをひたすら追い求めたメニューを展開する、というたくましすぎる商魂は見上げた物だしまた同時に相当にクレバーとも言えるのかもしれない。

私の知る限りこの手の店の走りは15年ほど前にすでにあった。
私が認識しているのはKS館という店で、すでに名古屋市内に数店舗を構えていた。
ただ当時の料理内容は今のそれとはすこし趣を異にしていたと思う。
日本式中華が中心という点は同じなのだが、同時に、もっと現地的な料理も豊富に揃えていた。
豆腐干や空芯菜、酸辣湯といった当時の(というか今もだが)名古屋ではなかなか普段使いの店で食べられなかった物もそこにはあった。
また普通の日式中華も含めて料理の味も全般的に充分に満足いくもので、かつ、なるほどこれはさすがに本場の厨士によるものだなあと思わせる一般的な安い中華料理屋とは一線を画す物に出会う事もしばしであった。
そのかわり今のように価格は極端に安いというわけでもなかった。
確かに料理の単価は安く見えたがポーションを落とした小皿料理が多く、逆にそういう所が台湾料理店的な使い勝手の良さにもつながっていた。

そんなわけでその店は全般的に「私好み」であり、当時ずいぶん利用させてもらっていた。
そしてその後同じような店構えと看板で、多くはその店同様**館という店名を掲げた店が徐々に増えていき、気がついたらそれは大増殖して現在に至る。

私はなにせそのKS館に対する好印象もあったので、思わぬ場所に突然出現するその手の店に興味半分で吸い寄せられる事もしばしだったが、店が増殖するのと比例するかのようにその期待は裏切られる事が多くなっていく事にも気付いていた。
そして最初の頃こそ新しくできる店にはその店なりの個性があったりもしたが、徐々にそれは判で押したようになり、その代わりに安さと途方もないボリュームばかりを売りにするようになっていった。
さらに残念な事にKS館を始めとする初期からの個性的な店もそのテンプレート的な内容に徐々に収斂していった。
専門的な見方をすると「業態の完成と共に出店が一気に加速する」というまるで大資本のチェーン店のような事がこの時期に起こったとも言える。

そうなってしまった後も実は私はごくたまにその手の店を利用している。
一つには、もしかしたらここでは看板通りの台湾料理、そうでなくてもいかにも大陸的な厨士の料理が多少は食べられるかもしれない、という淡い期待を持って新店に飛び込むケースである。
そしてそれは今の所100%裏切られている。
もう一つは、初期からの店に当時の名残の個性的なメニューが(半ば惰性で)残されているのを知ってて訪れる場合である。
例えば岐阜の中心部にあるS館という店には初期の頃は四川の厨士がいて本格的な四川料理をいくつか出していた。
なのでそこの「四川回鍋肉」は今でもキャベツなど入らず塊の茹でバラ肉を分厚く切り出し花椒や唐辛子たっぷりの香味油やトウチなどで調理した物である。(ただしその味自体はずいぶん劣化してしまってはいるのだが。)

そんな過去の名残を求めて訪れる店が名古屋市内某所にも一件あり、そこだけは自宅近くという利便性もあって長く通っている。
そこは夫婦二人で切り盛りするこの手の店には珍しい小さな店で、オーナーでもある料理人がずっと変わっていない事もありメニューのテンプレ化の進行がゆるやかかつ料理もどぎつくなく丁寧というたいへん貴重な店だ。
(逆に言えばそういう店すらゆるやかとは言え確実にテンプレ化が進んでいるというのもすごい話であるが。)
この店で必ず食べるものは手作りの小籠包である。
皮は厚めで野暮ったいと言えば野暮ったいのだが、その素朴で力強い味わいを私はたいへん気に入っている。
ただ奥さん曰く、これアナタしか頼まないし手間ばっかりかかるので正直やめたい、との事でありいつメニューから消滅してもおかしくない。
そんな事になっては困るので私は地域のコミュニティーで頑張ってこれを宣伝しているのだが、結局みな「台湾ラーメンと天津飯のセット680円(もちろん両方フルサイズ)」とか「エビチリ定食780円(お盆に乗り切らない程の揚げ物や小鉢やデザートなどの付属物付き)」しか頼まないのである。
さてその店が数年前にグランドメニューを刷新した。
テンプレ化はさらにまた少し進行していたが私が目当てにする小籠包や肉かけ飯(という名のだいたいルーロー飯)がかろうじて残されていたのを見て胸をなでおろした。
そしてさらにメニューを仔細にチェックしていると私は麺類のページに不思議な物を発見したのである。

「本店ラーメン」
というのがそれである。
普通に考えてそれは、その店の本店で出している名物のラーメンが今回のメニューリニューアルで満を持して登場、という流れではないか。
私はその店は夫婦二人の個人店であると思い込んでいたのでまずは驚いた。
そして、こんな満を持して的な登場の仕方をされたら一度はそれを食べておくべきなのではないかと考えたのだ。
私はためらいなくそれをオーダーした。

しばらく後、出てきたそれを見て私は軽く後悔をしていた。
真っ白なスープは明らかにあの業務用白湯スープである。
今時サービスエリアの食堂でも見ないような真うまかっちゃん味のアレだ。
私が最も苦手とする食べ物の一つである。
ラーメンの上にはもやしを主とする炒め物が乗っていた。
豚肉や海老も一緒に炒められており、その辺りが本店の名物料理としてのアイデンティティーであり付加価値という事であろうか。
しかし全くそそられない。
諦めて食べ始めると、落胆はさらに絶望に変わった。
業務用スープの希釈が妙に濃い上にこれでもかと強烈なニンニクテイスト。
スープに少量垂らされたラー油もそのどぎつさをさらに増幅していた。
いつものこの店の平凡だが抑制の効いた丁寧さはどこに行った?
それ以上にこんな物が名物の本店っていったいどんな店だ??

たまりかねて私は奥さんに尋ねた。
「ここって本店があったんだね。どこにあるの?」
すると意外な答えが返ってきた。
「本店?そんなの無いよ。ここはここだけだよ」。
アナタそんな事知ってたでしょう何を言いだすの?と言わんばかりである。
「え?じゃあこの本店ラーメン、ってのは??」
「これはそういう名前よ。本店ラーメン、という名前のラーメン」
わけがわからなかったが、とりあえずその場はそれで納得して引き下がるしかなかった。
そして私はすっかり諦めて再びそのラーメンとの格闘を再開した。
日頃たいへんお世話になっている店である。
小籠包に関してはもはやご迷惑をおかけしていると言っても過言では無い。
残すにしてもあまりあからさまな残し方をするわけにも行かない。
私はなるべくスープの汁気を切りつつ麺のみをなんとか食べ終えた。
きっちりとスープを吸い込んだもやしはスープの底に沈めて隠した。
私はその日、いろいろと割り切れない気持ちを抱えたままその店を後にした。

つづく





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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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