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「魚+臭み消し」の料理 その2 生姜、梅干し、タマリンド

イタリアの魚食文化に関してはちょっと面白い記事を読んだことがある。
イタリアの、特に南部はヨーロッパにしては魚食が特に盛んな地域であるが、それでもそこでは魚は正式な食事として認められていない節がある、と言うのだ。
彼らにとって普通の食事というのは、あくまで肉を中心に野菜や乳製品、パン、そしてワインが一通り揃った物だが、実はそこに魚が入り込む事は基本的には無いと言う。
魚を食べる時は、魚料理のレストランでひたすら魚を食べるものらしい。
野菜が魚と一緒に調理される事はないし、魚料理にチーズが使われる事も無い。
もちろんこれらはあくまで伝統的な慣習で、近年はそこまで厳密なものではなくなってきたが、それでもどこか、魚は自分たちの普段の生活の枠外の食べ物、という感覚は根強いというような事が書かれていた。

これには少し驚かされたが、しかし、魚がある意味食の中心でもある日本人の私から見てもその感覚はなんとなく分かる気がした。
魚を調理した後や食べた後、手を洗っても指先にしばらく残る匂い、調理器具や皿に残る残滓、といったものを思い浮かべると、それを家の中で扱いたくない、他の食べ物と一緒にしたくない、というのはそんなにおかしな考え方ではない。
これは、日本人にとってのモツ料理に対する感覚と少し通じるものがあるな、と感じた。
多くの日本人はモツ焼きなどの大衆酒場や焼肉屋などでモツを美味しく食べるけど、それはいつまでたってもなかなか家庭料理には組み込まれないし、懐石料理などの「正式な」日本食で扱われる事もない。
イタリアにおける魚料理も日本におけるモツ料理も、おいしく食べはするけど自分達の文化的テリトリーの中心部には置いておきたくない、というようなどこか穢れの思想のようなものも感じる。

「鰯も三度洗えば鯛の味」という日本の古い言葉がある。
下魚であるイワシでも、水で何度もよく洗えば鯛に負けないくらい美味しい、というような意味だ。
私は昔からこの言葉にちょっとした違和感を感じている。
だいたい、イワシ洗うか?
もちろん表面のぬめりや腹の中は洗うとしても、この言葉はなんとなくさばいた後の身を何度も水にさらすというイメージに伝わる。
いくらイワシが青魚でクセがあるにしても、そんな魚の旨みも流れてしまいそうなやり方は今ではちょっと考えられない。
そもそもイワシはそのままでも充分、鯛と張り合えるくらい美味いではないか。
しかしついこういう風に思ってしまうのもやはり、私たちが普段出会う鰯が別にそんなに臭くないからだ。
冷蔵庫や氷の無い時代、イワシなんてあっという間に臭くなったはずだ。
そしてそれを遠慮なくざぶざぶと水洗いしてもなお旨みはそこそこ残るほどに、鰯はもともとが美味しいものである、という風に私は解釈している。
江戸時代の「魚番付」という物を見た事がある。
トップはもちろん鯛で、下ランクには鯖だの鰯だののいわゆる下魚が並ぶ。
全体的に現代人の魚の好みとは随分異なるように見える。
その事に対して、肉の脂のうまさを知る前の日本人はなるべく脂の乗った物を避け淡白な物を好んだから、という解説がついていたのだが、私はどうもそれは違うのでは無いか、と思っている。
まず程度の問題こそあれ、またいくら昔の事とはいえ、日本人が無条件に脂の乗った魚よりそうでないものを好むというのはちょっとそのままでは信じがたい。
そういう目でランキングを見ると、上位に来る魚は確かに淡白な物が多いが同時にそれは傷みにくい、匂いの出にくい物とも言えるわけで、そこがわりと評価に影響を及ぼしているのではないかとも思うのである。
例えば昔マグロのトロが最底辺の食べ物であったのは、すぐに臭いがでてしまうからでもあったという。
そしてそのトロの臭いをネギで消したねぎま鍋は、日本の代表的な「魚&臭い消し料理」である。

日本人は偉い、優秀だ、みたいな妙なナショナリズムはあまり好きではないのだが、日本の伝統的な魚の臭い消しはとても洗練されていると言えるのではないだろうか。
特に日本酒と生姜は、元の風味を消さずに効果的に臭みを消すという意味でとても優秀だと思う。
青魚に梅干しというのも効果的だ。
スパイスという物はイメージと異なり、魚や肉の臭み消しという意味では案外無力だ。
もちろん肉の臭みを消す香辛料を求めて大航海時代が始まったと言われるくらいだから、効果が無いわけではないが、どうもニュアンスとしては臭いを消すというよりはせいぜいごまかすという方が近いように常々感じている。
飲食店のまかないでは頻繁に「臭いの出はじめた魚」が登場する。
昨日までは美味しい刺身や焼き魚で食べられたはずの魚たちのなれの果てである。
それを美味しくいただくために酒と生姜には随分お世話になった。

さて最後に今回もレシピを一つご紹介しておこう。
南インドの魚カレーである。
生姜をはじめとする香味野菜に各種スパイス、そして梅干しにも似たタマリンド、と臭み消しに効果のある材料オンパレードだ。
これなら南国の炎天下で放置された魚でも美味しく仕上がるだろうという感じではあるが、もちろん新鮮な美味しい魚で作るにこした事はない。
むしろ魚そのものの美味しさが仕上がりの美味しさを決める。
料理としてはわりとシンプルな組み立てでもあるからだ。
カレーとは書いたが一般的なカレーのイメージとは少し異なる南インドならではの魚料理と言った方がよいかもしれない。
辛味も酸味もかなり強めだ。
どうしても辛いのが苦手なら青唐辛子ではなくししとうを使い、さらにカイエンペッパーの量で辛さを調整してほしい。
工程も材料も日本の魚料理とは当たり前だが大きく異なる。
にもかかわらず、作っている時も出来上がった物を食べる時も、なんとなく日本の煮魚に通じるような感覚を覚える。
この不思議な感覚を是非体験してみていただきたい。

<南インドの魚カレー、ミーンコランブー>
(4人前)

・材料
サラダオイル 60cc
ホールスパイス(省略可)
フェヌグリークシード 小さじ1/2
マスタードシード 小さじ1
クミンシード 小さじ1/2
フェンネルシード 小さじ1/2
ブラックペッパー粒 小さじ1/2
ニンニク 4片
生姜 2片
玉ねぎ 1個
青唐辛子 又はししとう 4本
パウダースパイス
コリアンダーパウダー 大さじ2
カイエンペッパー 小さじ2
ターメリック 小さじ1
タマリンド 30g
ぬるま湯 300cc
塩 小さじ2
砂糖(あれば黒糖) 小さじ1
魚(サワラ、サバ、鰹など)300〜400g
トマト 小2個
香菜 ひとつかみ

・下準備
タマリンド30gは300ccのぬるま湯で15分以上ふやかした後、よくエキスを揉み出しザルなどでこしておく。
玉ねぎ、ニンニク、生姜、青唐辛子は全て粗めのみじん切り、トマトは櫛形に切っておく。
香菜も細かめに切っておく。
魚はだいたい何でも合うので好みの物を用意する。特におすすめはサワラや鯛だ。青魚にも合う。切り身でもいいが、一本なりの魚を手に入れて骨ごとぶつ切りで使うとよりインド的だし、何と言ってもその方が美味しい。

・調理
①鍋でオイルをあたため、ホールスパイスを上から順に加えていく。マスタードシードが入ったらいったん手を止め、パチパチと弾け始めるのを待ってから残りのスパイスを加えよう。
ホールスパイスは全て揃わなければとりあえずある物だけでもいい。もちろん揃うに越したことはないが、一つ二つ抜けてもそれは個性の異なる別の美味しさになるはずだ。極端な話全部なくても後に出てくるパウダースパイスによって充分カレーとして成立する。
②続いて、ニンニク、生姜、玉ねぎ、青唐辛子を全て加えて炒める。火加減は中から強火で良い。
③玉ねぎが透明になりだいたい火がとおったら、パウダースパイスを全て加える。手早く全体をなじませ全体がねっとりしたペースト状になったら、さらにもう少し香りが立つまで数十秒炒める。もしペースト状にならずボソボソするようなら少し水を加えてもいい。
④スパイスの香りが立ち表面にうっすらオイルが浮いてくる状態になったら、用意しておいたタマリンド水を加える。塩と砂糖もここで加えておこう。
⑤鍋が再び沸いたら、魚を重ならないように静かに入れる。
⑥続いてトマトも入れる。魚が崩れないように時々大きく鍋を揺すりながら中火で煮込んでいく。
⑦15分ほど煮込めば魚に完全に火が通り、グレイビー(煮汁)もかすかにとろりとしてくるはずだ。火を止める間際に香菜を入れて完成。
作りたてすぐよりも、一時間ほど置いて魚がグレイビーを吸い、全体がほどよくもったりとなった後が食べ頃。強目の酸味や塩気も少し落ち着いてぐっと旨味が前に出てくるはずだ。
固めに炊いた米とよく合う。もちろんパラパラの長粒米だとなお良い。食欲の落ちる暑い時期にもぴったりのいかにも南インドらしいシャープなカレーだ。

このブログを書いている時のBGM、、、おっと違った(←伝わる人にしか伝わらないボケですいません)














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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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