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奇跡のインド料理本 " the curry secret " 前編

インド圏以外の海外で、欧米人をメインターゲットとするインド料理店に行った事がある、という酔狂な人はまれかもしれないが、これはそういう人が見ると、なるほど!と膝を叩きそうな本である。
1989年にイギリスで出版、2008にリイシューされたこの
The curry secret
という本は、一冊の中でスターターからメインディッシュ、サイドディッシュ、ブレッド類に米料理、とインドレストランのメニューの一通りのレシピを懇切丁寧に解説している。
そのメニューの内容が、ブナ、コルマ、ダンサク、サグワラ、ジャルフレジ、バルティ、パサンダ、と、その手のインド料理店の典型的なそれなのである。

その手の店に共通する特徴としてはメニューラインナップ以外にも、メニュー数はやたら多いもののどれを頼んでも結局ほとんど同じ味、という点が挙げられる。
このレシピ本を読めば、それがなぜそうなるのかという事もよくわかるであろう。

著者が意図しているであろうこの本のコンセプトは
「おいしいインドレストランの全レシピを懇切丁寧に大公開」
という物であろう事はあきらかなのだが、しかしインド料理好きから客観的に見るとそれは
「よくあるダメなタイプのインドレストランのとほほな内幕を徹底暴露」
に見えてしまうというわけだ。
著者が意図しない角度から楽しめる本、という「トンデモ本」の本来の定義に見事に合致した本と言ってもいいのではないだろうか。

この本では、各種カレーのレシピが紹介されるのに先立って「ザ カレー ソース」なる物のレシピが極めて丁寧に説明されている。
このザ カレー ソースとはいかなる物かを本から抜き出してみよう。

「これはあらゆるレストランクッキングの秘密の中で最も厳格に守られてきた物の一つである。
それは滑らかな食感と黄金のような色を持つ。味わえば繊細なカレーの風味が心地良い。
良いレストランはどこでも、これを大きな鍋で用意し常に手元に置いている。
シェフからシェフへとほとんど変化する事なく伝わってきたそれは、マイルドな物からホットな物までレストランのあらゆるカレーのベースとなる」

インド料理通の方ならこれを読んだ時点で
「ははあん、あれの事だな」
と察するであろう。
この解説に続くレシピを見るとさらにそれがはっきりするが、この「カレーソース」とはインド料理好きの間では悪名高いいわゆる「ボイルドオニオングレイヴィー」と言われる物である。
簡単に言えば玉ねぎを煮てすり潰したポタージュ状の物を、うっすらカレー味に仕立てた物だ。
これがなぜ悪名高いかはこの稿を読み進めるとおいおいお察し頂けると思うのでここでは詳細は省く。
ただ一つだけ書き添えて置くと、私個人はこれ自体そのものを悪しき物とは思わないという立場だ。
ボイルドオニオングレイヴィーとハサミは使い様、と考えている。
これがどういう事かもまたおいおいとして、とりあえずここではそういう「カレーソース」なる物があるのだ、という事だけおぼえておいていただければそれで良い。
そしてそれは著者による解説の中にもあるように、この後出てくる数多くのカレーの内のほとんどの物のベースとして活用される。

このカレーソースなる物をいかに活用するかがこの料理書の中心的な内容となる。
その例を同書の「チキンディッシュ」の章に沿って解説していこう。

チキンディッシュの章では10種類ほどの鶏肉を使ったカレーが紹介されているのだが、それに先立ってチキンの下拵えが説明されている。
これはチキンの胸肉をキューブ状にカットして、オイルと少量のターメリックと先述のカレーソースの工程の途中で取り分けた少量の玉ねぎペーストと共に加熱する、という物である。
約10種類のチキンディッシュのうちほとんどは、この調理済みチキンとカレーソースの組み合わせで作られる事になる。
ではそれらを具体的に見ていこう。

・チキンカレー
もっともベーシックなチキンカレー、という位置付けであろう。
調理済みチキンとカレーソースに塩と追加スパイスを加えた物だ。
スパイスは、チリ、ガラムマサラ、クミン、カスリメティ。
仕上げにトマトと香菜が加えられる。
このレシピ自体は、なるほどそんなものか、というくらいの物なのだが、実は解説の欄にものすごい事が書かれている。
そのまま引用してみよう。

「もしこれに小さじ一杯のチリパウダーを加えればマドラスチキンになる。倍の量ならビンダルーになる」

なりません。
私は曲がりなりにもインド料理のプロとしての威信を賭けて断言してもいい。
なりません。

そして私はそこそこいろんなお店を食べ歩いた一人のインド料理好きでもあり、その経験から言うならば、確かに私はそのように調理されたと思しきマドラスチキンもビンダルーも過去に食べた事がある。
あの悔しさ、残念さは忘れない。
食い物の恨みは恐ろしいのだ。
その悔しさがどういうものかを説明するには本来のマドラスチキンやビンダルーがどういう物であるかを解説すべきなのかもしれないが、それを始めるとまた長くなってしまうので今回は割愛する。
その代わりこれをわかりやすくパスタに例えるならば、もしあなたがペスカトーレをオーダーして出てきた物がナポリタンにシーフードミックスをトッピングした物で、カルボナーラをオーダーして出てきた物がナポリタンに炒り卵を載せた物だったらどう感じるかを想像していただくと、だいたいご理解いただけるかと思う。
さて、気を取り直して次のメニューを見てみよう。

・チキンブナマサラ
おっといきなり今度はそそられるメニュー名である。
しかもレシピに先立つ解説にはこんな事まで書かれている。

「スパイシーという言葉は、必ずしも辛い事だけを意味するのではないのだ!」

そうそう!と世のスパイス料理好きは膝を叩くであろう。
そう、スパイス料理とは辛さだけではなくむしろそのアロマこそが重要なのである。
「なんだこの著者わかってるじゃないか、このブナマサラにはさぞかし工夫されたアロマが演出されているのだろう」。
しかしその期待は残念ながらいとも簡単に裏切られるのである。
その材料は、具としてチキンの他にマッシュルームとピーマンが加えられている以外は「チキンカレー」と全く同じなのだ。
「アロマは?!アロマはどこへ行った?!」
仔細にレシピを見直すと、ようやく一つの事に気づく。
ガラムマサラの量が、チキンカレーでは小さじ1のところ、このブナマサラでは小さじ1.5なのだ。
アロマとはこの0.5の差異に他ならなかったのである。
おっと、厳密に言うともう一箇所、チキンカレーとは異なる部分があった。
こちらのブナチキンには、赤のフードカラーが加えられる。
いわゆる食紅である。
後の方まで読み進めるとはっきりするが、どうもほぼ同じ味のカレーが二種類以上ある場合、少しでもよりスパイシーな方を赤く着色するというお約束があるようである。
親切ですね(棒

もう既に力尽きそうであるが、メニューのチェックは次回まだまだ続きます。








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プロフィール

イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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https://twitter.com/inadashunsuke

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