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奇跡のインド料理本 " the curry secret " 後編

さて2回にわたってこの珍しいインド料理本の内容を紹介してきた。
「主に欧米人相手の、メニューは一見豊富だがどのカレーを食べてもどれも味に大差なく、これといって特徴も無いレストラン」
の典型的メニューとその作り方である。

このタイプの店は昔から日本にもあった。
そして近年では、それらはさらに日本独自の進化(?)を遂げている。
私も若いころはそういう店しか知らなかったし、インド料理とはそういう物だと思っていた。
決して美味しくないというわけではないのだが、そういう店のカレーはエスニック料理ならではのビビッドでエキサイティングな魅力というよりは、もっとなんというか日常的ですんなりと受け入れられるものだった。
いまどきの言葉で言うならば
「普通に美味しい」
というやつである。
だから少なくともその頃の私にとってインド料理とは、美味しいといえば美味しいけどとりたてて夢中になるほどの物でもない、といった存在であった。

その後ずいぶんたってから、私はいわゆる南インド料理と出会った事をきっかけにインド料理の本当の素晴らしさとでも言うべきものを知り、それに心底夢中になった。
それはちっとも「普通」ではなく、ひたすらにビビッドでエキサイティングで刺激的だったからだ。
そしてそれは決して南インド料理だけの特徴というわけでも無いという事もおいおい知ることになる。
今までインド料理だと思ってたものはなんだったんだ!くっそ騙された!
そう思って、それまでさほど強くインド料理に興味を持ってこなかった事を後悔した。

そんな経緯があったから、私はそんな「美味しくないわけではないが何を食べても代わりばえのしない」この類の店に対しては、あまり良い感情はもっていない。
ことに(まさかそんなことになるとは夢にも思っていなかったが)自分自身がインド料理を商売にするようになってからは、その手の店のことを言うなれば反面教師として見てきた。
だから今回この本を入手して読み始めた時、まずその内容を滑稽だと感じた。
たいして価値の無い料理をわざわざ再現してどうする?と思ったのだ。
中身のレシピを読み進めると、なるほどこれがあの手の店の実態であると言うならばそこで凡庸なカレーしか出てこないのもあたりまえだな、と納得して溜飲を下げた。

だから今回この本に対しては、基本的に内容を茶化すトーンで紹介してきた。
上から目線、と言っても過言ではない。
もちろんそれは決してあまり趣味の良いふるまいではない。
しかしそれでもこの本の奇妙さは一人のものにしておくにはあまりに惜しいと思ったし、私同様この内容に溜飲を下げるカレー好きやインド料理マニアがたくさんいる事も想像に難いものではなかったから、筆もすいすいと進んだ。

しかし。
今。
この本をそれこそ前書きから裏表紙までみっちりと読み込んだ私は、なんというか落ち着かない気持ちになっている。
動揺していると言ってもいい。
「実は間違っているのはむしろ私の方なのではないか」。
そんな疑念がむくむくとわきあがってきているのである。
なぜそのように思うのか、ということについて書き始めたらなんだか大仕事になりそうな気がしている。
だからそのことについて書くのはいずれまた別の機会にしたいと思っている。

その代わり最後に、この本の前書きを翻訳してそのまま載せておく。
というのはこの前書きの内容こそが私を動揺させたその核となる部分だからである。
みなさんはこれを読んで何を感じるであろうか。


「インド料理店の料理の秘密を探索しようとする者は誰しもがたくさんの困難に道をはばまれる。インド料理の本を買ったとしても、それは伝統的なレシピと作り方であり、残念な事にレストランのカレーとはまるで異なる家庭料理の味を作り出す物なのだ。レストラン料理の技術は極めて厳格にその秘密が守られていて、それを暴く事がほとんど不可能であることは決して驚くにはあたらない。
トップシェフは彼の商売上の秘密を絶対に明かさない。なぜなら経営者が彼の技術を我が物にしてしまえば、彼は必要とされなくなってしまうかもしれないからだ。シェフは経営者同様その顧客を満足させようとはするけれども、その知識は心の中にしまいこんでいる。
私は、私が今置かれている立場が台無しになってしまうリスクを承知で、全てを明かしてしまうことを選んだ。この後のページでは、あなたが自分のキッチンで、あなたのお気に入りのレストランと同じ技術で、あなたが愛するカレーを作り出すための方法を、シンプルにそして正確にお教えしよう。あなたが今まで手に入れることのできなかった、特別な味わいを再現するためのその知識には、秘密のレシピも商売上のトリックも何もかも全てが詰まっているのだ。」

- Kris Dhillon
" the curry secret " introduction
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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
↓小ネタはコチラ↓
https://twitter.com/inadashunsuke

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