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美味しすぎると嫌われる、という現象

私がかかわるあるレストランの話。
そこではデザートのアイスクリーム類を基本的に手作りしているのだが、大口の宴会で最後に出すお口直しのシャーベットまでとなるとさすがにそこまでは手が回らず、業務用の物を仕入れて使っている。
業務用のシャーベットはもちろん不味くはない。
がしかしとりたてて美味しいわけでもない。
私はずっとその事が微妙に引っかかっていたのだが、最近になってついにびっくりするほどおいしい業務用シャーベットに出会った。
それはヨーロッパのメーカーからの輸入物で、価格もそう別に高くもない。
さっそく私はその店のシャーベットをそれに変えた。
これで、たとえ誰も期待していない宴会後のお口直しの時でさえ、自信を持って最高のシャーベットを出す事ができる。
私は大満足だった。

それからしばらく経ってから、私の知り合いがその店の宴会コースを利用してくれた。
10人ほどの職場の集まりである。
そしてその数日後、その知り合いに会う機会があったのだが、その時にそのシャーベットの話題が出た。
「最後に出てきたシャーベットがものすごく美味しくてびっくりした。あれも作ってるんだよね?」
と聞かれた私は、正直にあれは仕入れた物だよと説明した。
市販のシャーベットであんなの食べた事ない、と驚いた知り合いが、続いてちょっと気になる事を言った。
「でも何人かはあれダメだったみたい。全く食べられずに残した人も2人いたし。」

その新しいシャーベットの特徴はそのフレーバーの個性の強さだった。
レモンやベリーなどはキーンとするほど酸っぱく、また余分なベタつきもなかった。
逆にポワールなどの元々が淡い風味の物は、その香りや甘みを変にブーストするでもなく淡いままで仕上げられていた。
シャーベットのシリーズでけでなくアイスクリームもあったのだが、例えばチョコアイスはほとんど甘みが感じられないほどしっかり苦く、キャラメルは逆にしっかり甘くかつ塩気も効いていた。
シナモンなどのスパイスが使われた物はこれまたしっかりとシナモンの風味が効いていた。
その時店で出していたのは、夏場ということもあり特に酸味が強くさわやかなレモンのシャーベットだった。
それがある人にとってはとても印象的な美味しさで、ある人には酸っぱすぎて食べられない物だったというわけである。

その点、それまで使っていた国産の物は、フレーバーが何であろうと同じように抑え気味の酸味、ほどよい甘み、フレーバーの強さもだいたい同じくらいに慎重に整えられていた。
たぶんそれを使い続けていれば、特別美味しいとわざわざ報告を受ける事も無いかわりに、食べられないほど口に合わない人もいなかったんだろうという気はする。

シャーベットに限らず、こういう事は飲食店をやっていると頻繁に起こる。
美味しい物は誰だって大好きなはずだが、それをもっと美味しくもっと美味しくと追求していくと、あるラインを超えたところからこんどはそれを美味しいと思えない人が急増していく。
美味しい物はみんなが好きだが、もっと美味しければ美味しいほどみんながそれをもっと好きになるとは限らないのだ。

料理人はよく、自分が本当にうまいと思う物を提供しているのです、と言うがわりとそれは嘘である。
嘘と言っては言い過ぎかもしれないが、それはあくまでそのお店に来る不特定多数のお客さんに嫌われない範囲でのベストを尽くしている、というくらいの意味で解釈すべきだろう。
例えば結婚披露宴のフレンチなんてのはその最たる物だ。
せっかくのそこそこの値段がするフルコースなのに、よほど特殊な場合を除きそれは美味しいかもしれないけれども単に美味しいだけだ。
同じフレンチでも小規模なネオビストロのようなところだと、一部に嫌われても構わない、という姿勢のところは少なくないから、単なる美味しいを超えた美味しい物に出会える確率は多少なりとも上がる。
前に食べログに関する記事のところでも書いたけど、たまにある極端な低評価レビューからそういう店の本当の魅力が垣間見える事は少なくない。
あえて極端に言えば、本当の美味しい物は嫌われる事を恐れない姿勢からしか生まれないと私は思っている。

とは言うものの、お客さんがどう思おうと俺は俺が一番うまいと思うものだけを出すのだ、というスタンスの店が潰れずに存続し続けるというのは限りなく不可能に近い。
だからほとんどの店は「すっごくうまいと思うもの」を封印して「みんなに好かれそうなもの」だけで商売をするし、一部の(いくつかの条件が揃った)店だけが「すっごくうまいもの」を完全には封印せず両方のバランスを取りながら営業していく事になる。
そしてこのバランス取りこそがその手の飲食店の一番難しいところだ。

飲食店を楽しむコツの一つは、そんな店で「作り手が一部に嫌われるリスクをおかしてでもそれを提供したいと思っている料理」をメニューの中からさぐりあてる事だ。
慣れてくるとそういう料理はメニューの中から真っ先に浮き上がって見える。
本当ですよ。
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コメント

食べログの話、なるほどと思いました。この法則に照らし合わせて※1を読むと、びっくりする位素晴らしい文章なのかもしれませんね。

No title

至高性−大衆性ベクトルの話ですね
自分はアート関係の仕事をしているので、共感できました
料理も芸術なんだなぁ

No title

そのすごく美味しい業務用シャーベットのメーカー名が知りたい

コメントありがとうございます

アートや創作にも通じるものがあるというご意見は他でも多くいただきました。料理を芸術というカテゴリーの一部に含める事が可能かどうかはともかく、送り手と受け手の食い違いが往往にして生じるという意味での共通点はあるかと思います。音楽なんかもまさにそうですね。好きが嵩じてマニア化すると、好きになるものは世間一般で売れそうにもない物ばかり、なんてことになりがちですし。

食べログは低評価から見るべし、は鉄則です笑
なので(?)当ブログへの低評価、批判は大歓迎ですが、できればなるべく具体的な内容でお願いしたいものです。

シャーベットの銘柄は、申し訳ありませんが企業秘密ってことで笑

No title

 正確に言うと、「美味しすぎると嫌われる」のではなく、「『美味しい』に自分の好みを入れすぎると嫌われる」です。
 ヨーロッパのシャーベットにしても、あなたはそれが美味しいと信じて疑われていないようですが、少なくとも残した2人にとっては不味いものなのです。

 あなたが物凄く美味しいと感じるということは、よりあなた好みに近いということになります。
 つまり、それだけ味に特徴があるということです。
 当然、その特徴の分だけ好き嫌いは分かれるので、それが「あるラインを超えると美味しいと思えない人が増えていく」ことに繋がるわけです。

 ヨーロッパのシャーベットにしても、恐らくは日本国内の店舗の話でしょうが、日本人というある程度似通った食文化を持った者同士だから美味いと思う人が多かっただけの話で、もっと多種多様な人種がお客さんであれば、美味しくないと思う人が多数をしめていた可能性もあるわけです。

 要するに、そもそもの「美味しい」はあなたが思う美味しいであって、万人にとっての、基準となるような「美味しい」ではないのです。

だから
 「美味しい物はみんなが好きだが、もっと美味しければ美味しいほどみんながそれをもっと好きになるとは限らない」
 というのは間違いで、みんなも、美味しければ美味しいものほど、より好きになります。

 ただ、その「美味しい」は、あなたの味覚を基準にしたものではない、ということです。

 この世に絶対的な味覚を持つ人はいないにも関わらず、「自分が美味いからみんなも美味いはずだ」と考えることが思い上がりなのです。
 個人と大衆の感覚のズレというのは、単にそこを勘違いしているだけのことです。

 今回の件に関しても、あなたが無意識に「自分が美味しいものはみんなも美味しい」という思い上がりをしていただけのことで、より自分の好みに近づければ、それに合わない人が出てくるのは、何も不思議ではない至極当然なことです。
 味覚の問題ではなく、「自分の感覚は正しい」という思い上がりからくる、意識の問題です。
 

No title

>2015/08/12(21:44)
思い上がりじゃなくて長年の実感や経験則だと思いますよ
貴方が仰るのは机上の理屈であって
多くの料理人にとっての現実じゃない

Re: No title

実に的確なご指摘だと思います。
後出しジャンケン的というか言い訳がましいというかですが、私はこの記事であえてそういう独善的な言い回しをしております。
この記事の中の「美味しい」という言葉には本来ならいちいち全て
「人生の興味の大半を料理や食べ物に振り分けるような特殊なタイプの人々にとって」
という前置きが必要でしょう。
記事タイトルもそれで言い換えるなら、
「興味の大半を料理や食べ物に振り分けるような特殊なタイプの人々にとっての美味しい物を目指せば目指すほど、そうではない大多数の人々がそれを嫌うケースは多発しがちな現象」
という事にでもなるでしょう。
私は今回、そういうリベラルというか客観的な視点をあえて放棄してこの記事を書きました。
「人生の興味の大半を料理や食べ物に振り分ける特殊なタイプ」の典型的な一人である私からはこの世界が主観的にどう見えているのか、という事を描いてみたかった、という事にでもなるでしょうか。
ですから言い換えればこの記事は、このようなツッコミがあって初めて成立するとも言えるかもしれないですね。
一点だけ反論するならば、私は「自分が美味しい物はみんなも美味しい」とは全く思っておりません。むしろ真逆です。
実はこの後に、同じテーマをまた違う角度で(ある意味セルフツッコミ的に)いくつか書こうと思っておりました。機会がありましたらまたご笑覧下さい。


Re: No title

おっしゃる通りこれはこれまで体験してきた実感ですし、また経験則として、この味はこの程度受け入れられるだろう、みたいな読みは常にありますね。
シャーベットの件に関しては、久々に大きく読み違えたなあ、という失敗談でもあるわけですが笑

No title

食べるの好きなだけの一般人ですが、これすごく納得しました。自分がいつも「メニューの中で浮いてる幹事のものを頼んでみよう」としていたもやもやした行動をちゃんと説明して頂いた感じです。
サイゼリヤの件の記事から入りましたが凄く楽しく読ませていただいています!!

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プロフィール

イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
↓小ネタはコチラ↓
https://twitter.com/inadashunsuke

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