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料理のSN比と、目黒のサンマのジレンマ 後編

目黒のさんま、という有名な古典落語がある。
出先の目黒でたまたまサンマの塩焼きを食べた殿様がいたくそれを気に入り、城に戻った後もそれを食べたがる。
しかし城の家老や料理番としてはサンマのような下魚をそのまま食べさせるわけにはいかない。
そこでサンマのワタも小骨も皮も全て丁寧に取り去り団子にして、蒸して脂も抜いた物を汁の実として出した。
当然殿様はそれでは満足せず、「サンマは目黒に限る」というオチ。

実に現代的な噺である。
いや、昔も今も、と言うべきか。
料理人が独りよがりの技巧に走ってちっともうまくない物を作ってしまう、なんてエピソードは現実でもフィクションでも定番である。
海原雄山にけちょんけちょんにされるパターンだ。
オチにしても、今度はブランド信仰の半可通なグルメ気取りの客の方を返す刀でばっさり切っている。
古典落語というのはそもそもがどれも普遍的なストーリーを持つ物なのかもしれないが、これはその中でも最たる物の一つなのではないだろうか。

だがそれにしてもこの話は、我々飲食業にたずさわる側にとってたいへん身につまされる話である。
私たちの立場というのはこの噺におけるお城の料理番そのものだ。
この城の料理番は、職業的義務感にひたすら忠実であったのは間違いない。
殿様に提供する料理のSN比を限界まで引き上げるのが彼に課せられた職務だ。
そしてこの噺においてそれは、いかにも日本的な手法として、サンマのノイズを徹底的にカットする方向で行われた。
ただ残念な事にそのノイズカットはノイズ以上にサウンドを減ずる結果になってしまったのである。
SN比は向上するどころか減退してしまったのだ。
いや、減退は言い過ぎなのかもしれないが、少なくともそれは殿様が望まないベクトルを向く物に変質してしまったのである。

飲食業に限らず商売は、顧客を満足させる必要がある。
飲食業は特に競合が多い世界だから、価格以上の満足、よその店以上の満足を与えないと継続していく事は難しい。
平たく言えばお客さんに美味しいと言ってもらえてなんぼ、みたいな所がある。
そしてその「美味しい」はお客さんが期待する以上の物でなければいけないという事だ。
しかしそれには大前提がある。
期待値以上の付加価値を感じてもらうにはまず、不満が無い事が必要条件なのだ。
お客さんが喜ぶ物を出す、というのは重要だが、嫌がる物を出さない、というのはある意味それ以上に重要である、という事。
土台の無い所に城は建たない、みたいな話だ。
だから、実も蓋もないかもしれないが飲食店の基本は「無難である事」になる。
ただ無難であるだけだと期待値を「超える」ことは困難なので、店は顧客の顔色を慎重にうかがいながらおそるおそる逸脱を試みるのだ。
そしてこの逸脱はまた、料理人のエゴとも紙一重なのである。

なんだかまたも脈絡の無い内容になってしまった。
この話には結論などなく、このまましり切れとんぼで終わる。
このテーマを総論的に書くのは私の手に余る事がよくわかったので、この後しばらく、このテーマに関係するようなエピソードをいくつかオムニバスのようにお話しできれば、と考えている。
というわけでなんとなく次回に続きます。
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サンマの鮮度

目黒のサンマって、鮮度の重要性も盛り込んでるんじゃないでしょうか。
サンマは目の黒いうち(とれたてピチピチ)に限る、と。

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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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