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鋼メンタルのレストラン in カナダ

カナダのバンクーバーで行ったフレンチレストランでの、とても印象的だった話をしよう。

その店は港のすぐ近くにある、海の見えるモダンなレストランだった。
その港はヨットハーバーだったのだが、近くには漁港もあり、店はシーフードが売りであった。
そこに日本人3人とカナダ人1人で訪れた。
その日のコースのスープは、オマール海老のビスクだった。
ビスクというのはだいたいどこで食べても濃厚なものだが、そのビスクは他で食べた事がないほど濃厚だった。
そして濃厚なだけでなくとても塩っぱかったのだ。
同行者の日本人の1人は、一口啜るなり顔をしかめた。
彼は現地在住のビジネスマンで、この会のホスト的な立場でもあったからというのもあるかもしれないが、即座にギャルソンを呼びつけて抗議した。
「これはいくらなんでも塩からすぎないか?シェフは味付けを失敗したのではないのか?」
この時のその若いギャルソンの対応がある意味実に見事だったのだ。

「問題ありません。」
彼は顔色一つ変えずに即答した。
「このビスクはシェフの自慢料理の一つで、とても濃厚なのが特徴です。この濃厚さにはこのくらいの塩気でないとバランスが取れないのです。」
これは確かに味付けの法則としては理にかなった説明ではある。
ギャルソン氏はさらに続けた。
「塩からすぎると感じるのなら、一緒にワインをたくさん飲むとよいですよ。」
冗談めかして、とかではない。
真顔でのサゼッションである。
その対応はプロの誇りに満ちたものだった。
そしてこれまでもこのビスクに関して、同じような対応を何度となく繰り返してきたのだろうと感じさせるに充分なほど手慣れたものであった。

それにしてもこれは、日本ではまず考えられない対応である。
それ以上にそもそも多くの人が塩からすぎると感じ、実際に抗議も多発するであろうような料理を、揺るがぬプライドで提供し続けるというのがすごい。
シェフやギャルソンが鋼のメンタルの持ち主である、という事もあるのかもしれないが、それ以上にこういった逸脱を受け入れる文化的土壌というものがしっかりと根付いているのではないか、とその時私は思った。

この話にはまだ続きがある。
スープの後に前菜を挟んで、その日のメインディッシュはハリバットという魚の料理だった。
ハリバットというのは大型のカレイの一種で、癖がなくとても脂のりの良い、カナダではとても人気のある高級魚である。
ちなみにこのハリバットのいわゆるエンガワ部分は、日本にも大量に輸出されている。
回転寿司などで人気の妙に大きなエンガワがそれだ。
この魚料理がまた驚きであった。
ふっくらと火の通った魚の表面は、焦がしたパリパリの砂糖で薄くコーティングされていたのだ。
ソースはライムの酸味を感じるクリームソース。
そしてビスクとは対照的に、その魚自体にもソースにもほとんど塩気が当てられていなかったのだ。
有能なギャルソン氏は、今度は我々の期先を制するようにその料理の説明を執り行った。
「この魚はそれ自体がムースのようにとてもソフトでリッチでミルキー。だからシェフはこれをあたかもデザートのように扱ったのです。」
これにはさすがに一同ノックアウトであった。

結果として、他の同行者がどうだったかはともかく私自身にとってその時の食事は生涯忘れ得ぬディナーとなった。
機会があればまた訪れてみたいレストランである。
正直なところ、ビスクはあと0.5%塩分濃度を落とし、魚にはもう一振りふた振り塩を当ててあれば、それらはもっと美味しかったのではないかという気はする。
しかしもしそうしてあったとしたら、このレストランはここまで強い印象を私に与えたであろうか。
10年経った今も思い出すとまた行きたいと思うほど記憶に残る店になったであろうか。



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イナダシュンスケ

Author:イナダシュンスケ
業態開発とメニュー開発を中心に飲食店の雑用全般。enso / Erick south / Erick curry などなど。
ただしこのブログは完全プライベートであります。
偏り気味の食文化論、役に立たない食べ物ウンチク、飲食店の愉快でトホホなリアルライフ、そしてたまにはヒット数稼ぎの阿漕なレシピ公開、好きなものを好きと言うだけの中身の無い雑談、などをだらだらと垂れ流す予定です。
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